『強迫性障害からの脱出』の感想。行動療法の教科書的な本

『強迫性障害からの脱出』を読みました。

強迫性障害の国際的に有名な治療者であるリー・ベアーさんが書かれた本です。

Amazonのレビューに、「病院に入院した患者さんに配布される本」「行動療法の教科書」などと書いてあったので、読んでみたくなりました。

なお、『強迫性障害からの脱出』に書いてある「行動療法」は曝露反応妨害法ですが、このブログ記事内では必要なとき以外は「行動療法」と書きます。

ボリュームがある本なので、特に学ぶところのあった章の感想を書いていきます。

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『強迫性障害からの脱出』の内容

自分でおかしいとわかっているのに、次々とわきおこる不安から、奇妙な行動をくり返してしまう強迫性障害。現在、多くの人々が病院にもいけず、一人苦しんでいる。

このやっかいな病のもっとも効果的な治療が、行動療法だ。不安を抑えるために、具体的な行動目標をくり返し実行することで、自分をコントロールする方法を身につけていく。

薬を使わないので、副作用はない。いつでも、どこでも、自分で治療を始められる。国際的に名高い治療家が、数多くの臨床経験を踏まえ、読みながら治療できるように、わかりやすく実践方法を紹介する。画期的な基本テキスト。

目次

  1. 第1章 強迫性障害とは
  2. 第2章 どんな治療法があるか
  3. 第3章 自分をチェックしてみよう
  4. 第4章 目標の定め方
  5. 第5章 行動療法の実施へ
  6. 第6章 コントロールの保ち方
  7. 第7章 OCDと近縁の障害
  8. 第8章 薬物療法について
  9. 第9章 あなたの疑問に答えよう
  10. 第10章 家族、友人、そして協力者のために

第2章 どんな治療法があるか

強迫性障害にどのような治療法があるのか紹介されています。

「伝統的な精神療法」と「電気けいれん療法」は強迫性障害に有効とは言えず、「帯状束切断術」は薬物療法や行動療法が効かなかった重症の強迫性障害患者の1/4~半数に効果的だったそうです。

とはいえ、これらの治療法の紹介は、行動療法が唯一の効果的な治療法だという前振りですね。「帯状束切断術」は気になりますが、本題には関係ないので頭の片隅においておきます。

続いて行動療法の原則が書かれています。

コントロールできるのは行動だけ

<前略>感情や思考をコントロールしようと試みると練習によって多少はコントロールがうまくなるけれど、あらゆるときにコントロールしきれる人は一人もいない。

この簡単な事実を知るだけで、多くの患者は救われる。コントロール不可能なものをコントロールしようと、何年間ももがき続けてきたのだということをようやく悟る。

<中略>

すなわち、もしストーブを一回だけ消し、その後確認しないならば、それを行っている間の感情や思考に関係なく、宿題は成功したのである。(93~94ページより)

これを読んだとき、早くこの本を読むべきだったと思いました。私は自分でもがいて試行錯誤して、この原則にたどり着いたからです。さっさと教えてもらえばよかった。

そうなんです。行動療法を始めるときって、頭の中をどうすればいいのか考えてしまって踏み出せないんです。不安をどう処理すれば課題ができるのか。「納得」できないと行動ができないと思ってしまう。

頭の中はどうでもいい。何を考えていてもいい。

…って待てよ、『図解 やさしくわかる強迫性障害』の曝露反応妨害法では考え方も治すのでした。頭の中での安心もせずに、強迫観念にさらされるようにするのです。

『強迫性障害からの脱出』では、頭の中までは問いません。

まあ、最初は行動を変えることが何よりも大事ですよね。行動での強迫行為に抵抗できたという成功体験をしてから、頭の中での強迫行為をやめていくのでも良いと思います。

患者が強迫行為に抵抗できないというとき、その本当の意味は通常、「もし行為をやらなかったならば感じるである不快感を我慢したくない」、「もしやらなければ、生じるであろう不安を感じたくない」ということである。

<中略>

わたしたちは自分や他人の発言を信じてしまうので、まず「正確に話す」ことが大切なのである。だから、今度「できない」と言いそうになったら、「もし今それをやらなければ、気分が悪くなるだろう」などの、もっと正確な言い方に変えるように試みてほしい。(95ページより)

そうなんですよね。私はよほどのことでない限り、強迫性障害をやめられないことは無いはずです。

例えば、「地面に落としたスマホを何もせずにそのまま使う」とかだって、「そうしなければ殺すぞ!」と脅されたらできると思います。いえ、殴るぞ程度でもできるかも。

正確に話すとしたら、「もし今それをやらなければ、スマホを何回も拭いて、手洗いを何回もしなくてはならないと感じる」ですかね。

第4章 目標の定め方

行動療法では課題の設定が難しいです。行動療法の長期目標を設定するための基本原則が、以下の6つとして説明されています。

  1. 主要症状は一度にひとつだけ
  2. 実行する最初の症状を注意深く選択する
  3. 症状を具体的な目標に変換する
  4. 現実的な目標を設定する
  5. 目標に順位をつける
  6. 地球平坦症候群を避ける

6番目の地球平坦症候群というのは、地球は平らだと確信していた時代の船乗りが世界一周を想像できなかったことから名づけたそうです。

これと同じように、多くの人は治療を始めるとき、長期目標をほんの少しでも達成できるとは想像もできない。

<中略>

しかし、彼らは全員がほぼ数週間のうちに目標を達成した。(147~148ページより)

強迫性障害の患者が行動療法をとてもできないと考える。おそらくそれも、強迫性障害の症状のひとつなのでしょう。

私もそうでしたが、行動療法をする前に、日常的に何度も強迫観念に抵抗しようとはしているのですよね。でも、ことごとく失敗してしまう。

行動療法に必要なのは成功体験なのに、逆の失敗体験を積み重ねているわけなので、できないと思うのは当たり前です。

なぜ想像できないのだろうか?ある人が、自分に起こった心理的なプロセスを話してくれた。彼は汚染恐怖のために自宅でほとんど身動きもできない状態になっていたが、この障害に彼自身を適応させ、独自のシステムを作り上げてしまったため、長期目標を達成する場面を想像できなかった。

<中略>

(自分が知らない悪魔よりも、自分が知っている悪魔のほうがましだ、という昔からの言い伝えに彼が賛成なのは明らかだった。)(148ページより)

「自分が知っている悪魔のほうがましだ」という言葉に、中二病心がくすぐられました(笑)

行動療法に挑戦することは知らない恐怖で、日常の強迫行為は知っている恐怖。知らないこと・不安なことをやりたくないから行動療法をなかなかできないのだとわかりました。

大きな長期目標の次は、長期目標を達成するための小さな練習目標を決めます。

八十パーセント達成できる可能性があるか?

しかしどこから始めたらよいのだろうか?それにはまず、練習目標を達成することから始めたい。

<中略>

そのとき、「この目標は十回試みたら、少なくとも八回は成功するだろうか?」と自問すること。(159ページより)

80%達成できる課題でいいというのは心強いです。

私が行動療法をまだよくわかっていないときに、見よう見まねで初めてやった課題もごく簡単なものでした。

それは、チーズのパッケージに触っても手洗いをしないというものでした。当時は買ってきた新品の物に触っても手洗いせずにはいられなかったのです。

自分にとっては恐ろしく、震えながらやったものですが。「これくらいならできるだろう」と考えたからこそ、できたのだと思います。

第9章 あなたの疑問に答えよう

行動療法をするうえでの疑問とその答えが書かれています。

Q わたしは自分の力で儀式を止めようとしてきました―どこが行動療法と違っているのですか?

A <前略>患者は皆、行動療法を求めて受診する前に、独力で症状をコントロールしようと努力している。だが彼らが今、行動療法家を受診しているという事実は、その何回もの試みがうまくいかなかったことを示している。<後略>(308ページより)

さきほど書いた失敗体験の話です。重要なのは、自分で儀式を止めようという試みは行動療法とは違うということ。

中には、行動療法を学んで自分でやろうとして失敗したという人もいるかもしれません。行動療法が万人に効くわけではないので、そういう人もいるでしょう。

ただ、本書にも書いてあるとおり、行動療法ではやれると思った課題から始めていきます。

失敗した場合は、課題設定の難易度が高すぎた可能性があります。

Q どうすれば、恐れていることが絶対に起きないと確信できますか?

A 残念だが、確信できないというのが答えである!あなたがOCDであれば、絶対に危険なことをしないとか、あなたや家族に危害がおよぶことはけっしてないことを百パーセント保証してほしいと思うだろう。あいにく人生はそのようにはいかない。<後略>(316~317ページより)

「あいにく人生はそのようにはいかない」。強迫性障害を治すには、結局はこの事実を受け入れなくてはなりません。

これまでの人生では白黒はっきり答えがわかったと思っているならば、それは誤解にすぎない。本当は人生というのは不確かなものです。

著者は仏陀の教えを引用しています。

これに対して仏陀が北インドで大昔に教えてくれた解決策は次のことである。

「どれだけ追い求めても、望むような確実性はけっして得られないということを受け入れる。苦しみを止めるためには、受け入れることを学ばなければならない。この真理を受け入れ、幸せに過ごすか、あるいはこの真理に抵抗して苦しみ続けるか」の選択は、あなたにまかされている。(317ページより)

不潔恐怖症の悪化時には、よく理想の社会を思い描いていました。みんながきちんと清潔にして、手洗いをして、他人も綺麗にしていると信頼して安心できる社会です。

でも現実は、身近な家族や恋人でさえも強迫性障害の私から見ると「えっ!?」と驚くような衛生観念を持っていることに気がつきます。恐ろしいことにそちらが普通で、中には信じられないくらい汚いことをしている人もいるのだと知りました。

そういう自分は不潔恐怖症のために3日も4日も入浴できていないのですから、笑ってしまいます。

でも、現実の中で生きていきたいのなら、現実を受け入れるしかない。自分が現実に合わせるしかない。そう決心してから変われました。

『強迫性障害からの脱出』の感想

患者さんに配布される本って本当?と思うくらいに、分厚いしっかりとした本です。でも、文章はわかりやすくて読みやすかったです。

内容は、もっと早く読んでおくべきだったと思いました。行動療法をやるうえでつまづきがちな点を、しっかりと説明してくれています。

私が曝露反応妨害法のキモと考えている、頭の中での強迫行為への対応をしないのは「いいのかな?」と思いましたが、それは自分で注意すればいいだけのこと。

行動療法(曝露反応妨害法)をやるなら、『図解 やさしくわかる強迫性障害』でおおまかなやり方を知り、『強迫性障害からの脱出』で補足するのがいいと思いました。

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