『完全版 不安のメカニズム』を読みました。
1974年に発行された『不安のメカニズム』は、オーストラリアの医師が不安症状に苦しむ人に向けて書いたロングセラーです。「完全版」はその続編と共に、2冊を1冊にまとめて出版されました。
ずっと読んでみたかったのですが、二つの理由から手に取れませんでした。
一つ目は、発行が古いので今となっては間違った情報が入っていて、自分の治療の妨げになるのではないか?という恐れ。
これはまったく心配ありませんでした。完全版では日本人医師の監修がついてますし、少なくとも毒になることは書かれていません。
二つ目は、翻訳書が苦手なうえに文字も小さくて分厚いので、読みこなせる自信がなかったのです。
実際に、強迫性障害・パニック障害・うつ病などで、生きているのが精一杯な人にとって、この本を読むのはしんどいでしょう。
それでも、このブログを読む程度に文字が読めるなら、ゆっくりと1ページずつでも読んでみて欲しい。その価値があると思える本でした。
『完全版 不安のメカニズム』の内容
経験豊富な開業医が不安症状に苦しむ人に語りかけるロングセラー。自らの心の持ち方を変えていくことで改善できるという著者の確信が、快復へと導いてくれる。
目次
- あなたが持っている「内なる力」
- 心の疲労
- 筋肉の疲労
- 感情の疲労/
- 頭の疲労
- 魂の疲労
- 心の疲労と神経症
- 神経症とは?
- 単純型神経症
- 単純型神経症の治療法
- 真正面から向き合う
- 受け入れる
- 浮かんで通り過ぎる
- 時が経つのに任せる
- いろいろな症状の治し方
- 繰り返し起こる神経発作の治し方
- 自分を取り戻す
- 複雑型神経症
- 複雑型神経症の治し方
- 悩み事
- 悲しみ
- 罪悪感と恥辱感
- 強迫性障害
- 不眠
- 朝のつらさ
- 抑うつ感
- 自信の喪失
- 人とのつき合いがうまくできなくなる
- 家に戻りづらい
- 不安感
- 三人の強い味方―仕事・勇気・信じる心
- こうすればよくなる
- 再発が不安だったら
- 家族へのアドバイス
- 神経症にかかりやすい人
- 内なる声を育てる
2冊の本を1冊にしたので36章と長いですが、後半は同じことを言っている部分も多いです。
読むのが辛かったら、まず7章まで(60ページ)、できれば14章まで(116ページ)を読んで、あとは目次を見て興味がある章を読むという形でもいいと思います。
心と体の症状に対する恐怖
「今、自分の心と体に現れている症状」に加えて、「そこからどうしても抜け出せないという恐怖の迷路に陥った状態」を恐れているのです。(『完全版 不安のメカニズム』16ページより)
強迫性障害になった当初は「強迫性障害になったこと」への落ち込みもひどく、うつ状態になっていました。「治るかどうかの不安」「将来への不安」などもありました。
まさに、「恐怖の迷路に陥った状態」にあったので、そうそう!と共感しました。
私は「待てよ、強迫性障害で困るのは仕方ないとして、強迫性障害になったことを気に病んでも状況は悪くなる一方じゃないか?」と思い、そちらの悩みは考えないようにしました。本書の言葉を借りると「頭の中から追い出し、空に浮かべた」のです。
頭から離れなくて無理、いったいどうやるのか?と思われるかもしれませんが、この本を読めばやり方がわかると思います。
神経の過敏化が悪循環を生む
心と神経が極度に過敏化していると、感情ー特に恐怖感ーに押しつぶされるように感じることがあります。しかも、苦しんでいる人の多くは、それが過敏化のせいだとは気付いていないため、そうした状態に戸惑い、恐怖を感じて、自分自身を「恐怖→アドレナリンの分泌→恐怖」という悪いサイクル(悪循環)に陥れてしまいます。(25ページより)
1974年に発行された本ということで、非科学的な精神論を中心に書かれているのではないか?という猜疑心を吹き飛ばされました。
筋肉と神経が不安を増大させる仕組みについて、しっかりと解説されています。
私も強迫性障害になってから、なんでもない物音にビクッとしたり、小さなできごとを大きな問題のようにとらえてしまうことがあります。
自分が過敏化していることを理解しておき、流せるようにしたいです。
治療の4原則
治療法は、以下の「4つの原則」として書かれています。
- 真正面から向き合う
- 受け入れる
- 浮かんで通り過ぎる
- 時が経つのに任せる
真正面から向き合う
回復のカギは、あなたが行くことを恐れている「場所」や、やることや思い出すことを恐れている「行為や体験」の中にあります(85ページより)
受け入れる
「受け入れる」というのは、「身体から力を抜き、できる限り楽な状態で、恐怖の対象である症状や体験から尻込みせずに、それらに向かって進んでいく」ということです。(90ページより)
浮かんで通り過ぎる
自分の体を疲労の沼から救い出し、ふわりと浮かばせて通り過ぎて行こうとする時、無理に回復への道を探す必要はありません。それは、自分自身は体から抜け出して、あとは身体が勝手に迷路からの出口を見つけるのをながめている……といった感じです。(106ページより)
時が経つのに任せる
回復のカギは「忘れる」ことではありません。「もうそんなことはどうでもいい」と思えることが大事です。ですから、時間の経過が必要なのです。(116ページより)
やっぱり向き合わなければいけないのかと、ため息がでる人もいるかもしれません。
でも、この本にはちゃんと、向き合う勇気の出し方や受け入れるときの心の持ち方が書かれています。
ただ、私は高所恐怖症でもあるので、最初は「浮かんで通り過ぎる」をイメージしようとすると、空に浮かんだ自分を想像して怖くなってしまいました。
試行錯誤をして、落ちても怪我をせず・地面の汚れが気にならない、高さ50cmくらいのちょうどいい場所に浮かぶのに苦心しました(笑)
自分自身が浮かぶのではなく、不安を風船に詰めてふわふわと空に浮かべる想像をするときもあります。
そちらの場合も、風船が手から離れて行かないようにしっかり握っていなければ!バッグに結びつけたらどうか?気づかないうちにほどけたら…などと余計なことを考えてしまうのですが。
むしろ、不安はお空に飛んで行ったほうがいいはずなのですけどね。
強迫性障害の「第二の恐怖」
気になっていたのは「第23章 強迫性障害」の内容です。この章は10ページあり、「回復への4ステップ」を強迫性障害の場合に当てはめて書かれています。
一日中手を洗っても、後ろめたさを感じることなく自ら進んでやっている場合は、それほど疲れません。手を洗う行為に緊張や不安、怒り、絶望的な気持ちなどが伴った場合に疲労が生じるのです。(227ページ)
これは、綺麗好きな潔癖症の人たちが存在することを考えれば、簡単に理解できるのではないでしょうか。
いえ、他人を想像しなくても強迫になる前の自分を考えてみれば、料理も掃除も、強迫になってからは処罰を受けるようなみじめな気持ちがする入浴さえも、楽しめていたころがあったのです。
強迫観念を自ら進んで、ありのままに受け入れようと決心すれば、きっと心の平安がもたらされます。そして、強迫観念がそれほど恐ろしいものに思えなくなります。(227ページ)
曝露反応妨害法と違うところは、強迫行為はしたままで、強迫行為をしているときの気持ちを変えるという点です。
これも、とてもよくわかります。私も強迫行為をしているときは必要以上に苦しいと思わず、淡々とこなすことを心がけています。
いまになって振り返ると、そうして恐怖の度合いを下げたからこそ、曝露反応妨害法をやる気になるまで持っていけたのかもしれません。
『完全版 不安のメカニズム』の感想
長い本でしたが、読んでよかったです。後半になると同じことの繰り返しもあるので、思ったよりは読むのが辛くありませんでした。
この本の著者である医師の治療で良くなった症例も多く書かれており、希望が持てます。
強迫性障害に役立ちそうな本を読みあさり初めてまもないですが、その中では「この本にはほかの本に書かれていない重要なことが書いてある」と感じました。
不安障害の本には当たり前に書かれていることなのでしょうか?
人間なら誰でも、不安や悩みを抱えることはあります。そういう意味では、強迫性障害・不安障害・うつ病などに悩む人だけではなく、不安と上手く付きあいたい人に広くおすすめできる本です。
全体を通して不安への対処法を学べれば、強迫性障害だけに限らず今後の人生において役立てられます。
欲を言えば、この本に書いてあることを、もっと短くしてわかりやすく書かれた本があるといいですね。ドラッカーやアドラーのように漫画化してもらえたら最高です。
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