『つらいと言えない人がマインドフルネスとスキーマ療法をやってみた。』を読みました。
著者は臨床心理士の伊藤絵美さん。認知行動療法の本を何冊も出されています。
認知行動療法の中にはいろいろな技法があります。うつ病によく使われるコラム法をはじめとして、強迫性障害に使う曝露反応妨害法、マインドフルネス、スキーマ療法もその中のひとつ。
強迫性障害には曝露反応妨害法が使われるので、ほかの認知行動療法は効果がないと言われてきました。
たしかに曝露反応妨害法をやらずにコラム法などだけをやっても、強迫性障害の改善は難しいでしょう。でも私は、並行して使う、あるいは前段階として使う意味はあるのではないかと思うんですよね。
というわけで、マインドフルネスとスキーマ療法の効果のほどを知りたくて、この本を読んでみました。
『つらいと言えない人がマインドフルネスとスキーマ療法をやってみた。』の内容
人を助けるひとは、なぜ自分を助けられないのか。
自分の感情をないものとし、感情を出す人を「レベルが低い」と見下す“オレ様”開業医のヨウスケさん。
自分の感情より相手の感情を優先して、他人の世話ばかりしてしまう“いい人”心理士のワカバさん。
一見対照的なふたりですが、意外なところが似ています。それはどちらも「つらいと言えない」人たちだということ。
いえ、これはもしかして、医療や福祉に携わる専門職や、ボランティア活動に勤しむ人たちに共通した特徴なのかもしれません。日々他人のために活動し、自らの感情に目を向けない。そして、そんな自分は強くなくてはならない。
とても重要なことですが、ときどき息苦しくなりませんか?
というわけで、そんな人たちがマインドフルネスとスキーマ療法をやってみたら……世界が違って見えてきました!
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★「認知行動療法」や「スキーマ療法」の概略がざっと分かるコンパクトレクチャー収載!
目次
- 私はなぜこの本を書いたのか―長いまえがき
- 第1章 ヨウスケさんと行ったマインドフルネス
- 第2章 スキーマ療法を通じてのヨウスケさんと家族の回復
- 第3章 慢性的な生きづらさを持つワカバさん
- Lecture
認知行動療法とは何か、マインドフルネスとは何か、スキーマ療法とは何か - Exercise
レーズン・エクササイズ、呼吸のマインドフルネス、歩くマインドフルネス…など
疼痛性障害を抱えたオレ様なヨウスケさん
一人目の患者ヨウスケさんは内科の開業医です。
精神的な問題が体の痛みになって表れる、疼痛性障害という背中の痛みを抱えてやってきます。しかし、自分の痛みの原因が精神的な問題だと納得できていません。
エリート一家で育ち、自尊心が高いオレ様タイプ。周囲の人を見下す一方で、家族の中では落ちこぼれだったために傷つきやすい。自分の弱さや不安を認めることすら怖い。
不安を封じ込めていて、心の痛みとしては出せずに体の痛みとして出てしまうこともあるのですね。
疼痛性障害への対処法も強迫性障害への対処法と似ています。
しかしその痛みの原因や箇所がどうであれ、その痛みにあまりにも強くとらわれ、痛みに振り回されるような生活を送ってしまっている人の場合、痛みを中心とした悪循環が起きている可能性が高く、そこをCBT(※認知行動療法)で突破していくことは可能です。痛みをなくすことを目指すのではなく、痛みにとらわれない生活を目指すのです。(44ページより)
強迫性障害でも、強迫性障害にとらわれないようにすることが大切です。
痛みを中心とした悪循環。痛みに注目してしまい、痛みが生活の中心になってしまうのを避けるのが、痛みから解放されることなのです。
精神的な不調の場合、まずはそれが基本なのかもしれません。
当機関にてCBTを開始することになり、いざ担当者を決める段になると、「最高の担当者じゃなければ嫌だ」「受けるなら最高のCBTを受けたい」<略>と、やたらと“最高”にこだわります。(46ページより)
伊藤さんはこれを「所長の私が担当者になることを望んでいる」と書かれています。“最高”の“完璧”な治療でなければ意味がないという白黒思考もありそうだと思いました。
私の知人にもヨウスケさんタイプの人がいるので、わかるな~こういう人!とはいり込んで読めました。
ヨウスケさんが抱えている痛み以外の問題にも共通点がありました。テンプレ的な人物像なのでしょうか。
その人も精神的な不調を抱えているので、ぜひこの本を読んでほしいけれど、おすすめしづらいですね(笑)
頭痛と疲労感がある真面目で良い子のワカバさん
二人目のワカバさんは「睡眠(夜更かし、睡眠不足)」「頭痛」「疲労感」の問題があります。
真面目に毎日を過ごすワカバさんは、とても忙しい日々を送っています。
体の不調の原因は忙しさにある。ではなぜそんなに忙しいのかというと、自分よりも「人のため」を優先してしまい、いっぱいいっぱいになっているのです。
長女で母親の愚痴や不満の聞き役だったため、人、特に母親に負担をかけるのが悪いという自動思考があります。
伊藤さんはワカバさんを「きちんとしすぎて隙がない」と表現しました。
私は残念ながら(?)そこそこ真面目ではありますが、さぼったり手抜きをするのも得意で、ワカバさんタイプではないです。
ただ、両親との関係においては、ワカバさんと同じように負担をかけてはいけないというスキーマがあるように思いました。
母の話の聞き役でしたし、母も結婚した兄弟よりは独身である私を頼るところがあります。幸い、私の母は愚痴っぽくなく、むしろ不満が少ない人なので負担感は少ないですが。
強迫性障害になってどん底に落ちたときでも親を頼れなかったのは、頼られる側だったからというのがありそうです。
まあ、うちの場合は頼るほうがめんどくさいことになるという関係でもあるのですよね。私の場合は「適度に頼って相手を満足させる」ということもやってしまいます。
『つらいと言えない人がマインドフルネスとスキーマ療法をやってみた。』の感想
マインドフルネスとスキーマ療法がどういう治療法なのか、どんな効果をもたらすかというのがわかりやすかったです。
ざっと3/4がヨウスケさんで1/4がワカバさんのお話です。
ヨウスケさんのほうが問題が深く時間がかかるケースなのでしょう。治療に対する抵抗や途中の展開も、とてもリアリティがありました。
この本に出てくるのは、「つらいと言えない(感じられない)人びと」です。そういう人には特に、マインドフルネスとスキーマ療法が役立つのだろうと感じました。
強迫性障害は曝露反応妨害法を始めるまでが大変です。治療への障害となっている自動思考があるのだとすれば、前段階としてスキーマ療法をやってみてもいいかもしれません。
治療者や患者として技法を知りたい人はもちろん、生きづらさを感じている人にもおすすめです。