2019年9月15日(日)に放送されたフジテレビ『Mr.サンデー』(ミスターサンデー)の「医師たちの闘いSP」を観ました。
医療現場3つのうちの1つとして、強迫性障害の治療現場が取り上げられました。
私も治すのに使った曝露反応妨害法という治療法です。
実際の治療シーンを見られる、とても貴重な特集でした。
『Mr.サンデー』9/15 強迫性障害の内容
Mr.サンデー 医師たちの闘いSP
▼母の手料理が食べられない娘…強迫性障害を克服できるのか?
ある女性が、職場でパワハラを受けたことが原因で出始めた症状。それは、本人でも信じられないほど極端に「何かを汚い」と感じ、不便な生活を送らなければいけないという“強迫性障害”だった。自分でも直せないばかりか、それにより周りの人を深く傷つけていった。女性はこの病気をどう克服するのか?強迫性障害の実態と、その治療に臨む家族の物語。
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Mr.サンデー – フジテレビ
強迫性障害がどのような病気なのか、千葉大学医学部附属病院 認知行動療法センター長 精神科専門医の清水栄司教授から説明がありました。
強迫性障害とはどんな病気か
- 「バカバカしいな」「こんなことしなくてもいいのに」と思っていてもやめられない
- やらないと「なにか大変なことが起こってしまう」「後悔するのではないか」と思うと1時間も2時間も手を洗ってしまう
- 本人としては非常に苦しい病気
強迫性障害は不潔恐怖症だけではなく、確認、加害、縁起など様々な症状があります。
今回は、不潔恐怖症の患者さん二人が紹介されました。
子供のために強迫性障害を治したい主婦
1人目は、主婦・久美さん(仮名・30代)。同い年の夫と幼児がいます。
自分が汚いと思うものを避けて、自分や家族が触れるとウェットティッシュで拭きます。
久美さんの強迫症状の一部
- 歩いていて前にゴミ置き場があるとルートを変える
- 夫が電柱に近づくと腕を引っぱって遠ざける
- ショッピングセンター内の壁に腕が当たるとウェットティッシュで拭く
久美さんは、強迫性障害の気持ちとして以下のように話していました。
「自分ではやりたくないんです、本当に」
「頭のどこかでは“きれい”って分かってるんですけど」
「(強迫行為を)やらないと、言ってしまえば死んじゃうくらいの恐怖を感じてしまう」
強迫性障害のグループセラピーに参加して、治療の決意を語りました。
「子供が生まれて絶対治さないとこの子もそうなっちゃうって思ったので、何がなんでも治さないとって思ってるんです」
母の手料理が食べられない娘
2人目は、強迫性障害の陽子さん(仮名・24才)。母子家庭で、家族は母の咲江さん(仮名・51才)。
仲のいい親子だったのに、3年前に強迫性障害を発症すると、母の料理さえ食べられなくなったそうです。
お母さんは、「(私が)触るもの触るもの全部ダメなのかなって思ったら、本当に自分のこの手はいらない・切り落としたい、そんなふうに思いましたね」と声を震わせながら話していました。
強迫性障害の患者が手を切り落としたいというのはあるでしょうが、家族が言うのは聞いたことがなく、胸を打たれました。
陽子さんは職場のストレスから手を洗い続ける強迫性障害を発症し、退職します。
けれど、強迫性障害はおさまらず、今度は家の中やお母さんが汚く思えて仕方がなくなります。
陽子さんの強迫症状の一部
- 自分が汚いと思う場所に触れると洗いなおし
- 母に近づかず触れると服を着替える
- 母の手料理が食べられない
2018年7月、陽子さんは東京都中央区の原井クリニックを訪ね、精神科専門医 原井宏明院長のもとで曝露反応妨害法という治療を受けます。
行動療法「曝露反応妨害法」
- “本人が不快と感じて避けているもの”に触れさせる→“手を洗わせない”を繰り返す
- 「手を洗わなくても大丈夫だった」という成功体験→普通の生活に近づける
原井医師(以下、医師)は、椅子の布製の座面を指して陽子さん(以下、患者)にたずねます。
医師「この椅子とかどう」
患者「あーちょっと、ちょっと」
医師「じゃあいこうか、しっかり触ってみよう」
次は、トイレの中で医師が患者に便座を指して尋ねます。
医師「これはどこらへんが嫌かな?」
患者「えー、どこも嫌です」
医師「どこも嫌って決まってるね」
患者:指先で便器の中をちょんちょんと触る。
医師「できた、できた、すごい」
患者「洗いたい…」
患者はそう言いながらも、便器の中を触った指を両手中に触れさせていました。
次は、ほかの患者さんたちと一緒に、お母さんが作ったハッシュドビーフを囲みます。
患者:皿を前にしてすすり泣く。
医師「想像するね。きちんと手を洗わない人もいるから、そうして汚れたところをお母さんが清掃してくるわけだ」
医師は飴玉を手に取りました。それをほかの患者になめてもらい、手に出されたものを受け取ります。
ほかの患者がなめた飴を見せます。
医師「口に入れてみようか」
患者「えー??できません」
けれども、陽子さんは泣きながら口に入れました。続いて、ハッシュドビーフを口に運びます。
医師「できた、できた、できた」「どう、お母さんの作ったもの?」
患者「食べられないことが申し訳なかったので、食べられるようになって、よかったなと思います」
横で見ていたお母さんは、「苦しそうでしたけどね。勇気を出してやったのかなと思います」と言っていました。
陽子さんは自分からお母さんの手を握りました。
「トイレにいれたからねこれ。トイレにいれたんだよ」と言う陽子さん。
(トイレに入れた手だけれど大丈夫?)と確認してしまったのでしょうね。
お母さんは笑いながら反射的に「えーっ?」と言って手を離しましたが、すぐに「すごいね」と手を握りなおしていました。
私、涙。
もちろん、陽子さんはがんばったしすごいです。でも、お母さんの愛情の深さに泣いてしまいましたよ…。
トイレの便器の中なんて、普通の人でも汚いと思います。お母さんもそう感じて、とっさに手を放したのでしょう。
でもすぐに、治療をやり遂げた陽子さんを受け止める、寄り添う気持ちが勝ったのだろうと思います。
1年後、陽子さんとお母さんは二人で一緒に料理をしていました。
陽子さんは、以前、大好物だったお母さんの玉子焼きを食べています。
お母さんは、「普通のことなんですけどね。いろんな当たり前のことが当たり前にできるようになったっていうのが、うれしいです」と話していました。
陽子さんは、2019年4月に新たな職場に就職したそうです。
ナレーションは「それは、なかなか理解されない強迫性障害も正しい治療で社会復帰できることをしめしていた」と結びました。
曝露反応妨害法は嫌なことを強制する治療法ではない
テレビをご覧になって、便器に触ったり人がなめた飴をなめることを
- 誰でも普通は嫌だろう
- ここまでやる必要がある?
- こんなことをしたら悪化するのではないか
と思われた人もいると思います。
当たり前です。
曝露反応妨害方法は、普通ではやらない・一般的にも抵抗がある行動をやるものですから。
ただし、患者が望んでいないのに医者が無理やり強制するのではありません。
患者が「自分はこれをやらなければ治らない」と理解し、納得して取り組む治療です。
治るために必要だからやるのですし、悪化するならやらせるわけがありません。
陽子さんも自分から便器の中に手を伸ばしました。飴を口に入れました。
本当に無理なら、泣いて叫んで逃げ出すこともできますよね?
患者がこの治療を受けるのは、ただただ治りたいからです。
強迫性障害の辛さと治療の怖さを天秤にかけて、治療を決意しています。
「こんな治療法はひどい」と感じたなら、どうか「ここまで過酷な治療を受けなければならないほど苦しみが深い患者がいる」と、知っていただきたいです。
不潔恐怖症は汚いものに触らせれば治るという単純な話ではない
この日のMr.サンデーは「医師たちの闘いSP」であり、「日本の医療現場の最前線を徹底取材」でした。
原井クリニックが行っている曝露反応妨害方法は、高度なテクニックが必要な、熟練した治療者だからこそできる治療法です。
原井医師は長年、強迫性障害を専門的に診てきた先生で、全国から飛行機や新幹線で通院する患者もいるほどです。
素人が表面だけ見て「汚いものに触れば治るんだって!ほら、やりなよ!」と患者に強制しても、やれないし治りませんのでご注意ください。
強迫性障害の患者は、普通の人が「こうすれば治るんじゃないか」と考えつく提案は、とっくに考えたり試したりしています。
自分で何度も強迫行為をやめようと挑戦し、できずに打ちのめされています。
自分でコントロールできなくなるから苦しんでいるし、病気なのです。
普及している曝露反応妨害法はもっと優しい
強迫性障害の患者さんの中には、曝露反応妨害法ってこんなことをさせられるの!?と恐怖を感じた人もいるでしょう。
私もはじめて知ったときはそう思い、恐ろしさに震えました
幸か不幸か、原井クリニックがやっている治療は、その辺の病院で手軽に受けられるものではありません。
「こんな治療なら病院なんて行かない!」という必要はないので、安心してください。
曝露反応妨害法でも、多くはここまで踏み込んだ治療はしません。不安が小さいものから、時間をかけて段階的に挑戦していきます。
それでも、常識の範囲内での治療では治らない人たち、原井先生の治療を必要としている人たちがいるのです。
『Mr.サンデー』9/15 強迫性障害の感想
強迫性障害がテレビで取りあげられ、原井先生の治療が見られて嬉しかったです。
出演された患者さんたちも不安が強い病気の中で、たいへんな勇気が必要だったでしょう。
『Mr.サンデー』と原井先生と患者さんたちに感謝します。
ただ、曝露反応妨害法は強制的ではなく、原井先生の治療法が標準的でもないことは解説して欲しかったです。
原井先生の著書『図解 やさしくわかる強迫性障害』では、患者が一人で治療できるように、段階的な曝露反応妨害法のやり方も解説されています。
私は強迫性障害で苦しんでいた2014年にテレビで原井先生の治療を知り、本を読んで強迫性障害を治しました。
Mr.サンデーを観て、自分が強迫性障害かもしれないと気がついた人、曝露反応妨害法を受けたいと思った人たちが、治療につながり回復することを願います。
番組に登場した原井クリニックのサイトはこちら。
原井クリニック
私の曝露反応妨害法の体験談はこちら。
曝露反応妨害法の体験談
新版『図解 やさしくわかる強迫症』が出ています。