『子供の死を祈る親たち』の感想。引きこもりに強迫性障害は多いのか?

『子供の死を祈る親たち』を読みました。病識がない精神病の患者を医療につなげる、「精神障害者移送サービス」の押川剛さんが書いたノンフィクションです。

前作『「子供を殺してください」という親たち』への反響を受けて、患者側の視点や精神障害者を取り巻く行政サービスの現状について、より詳しくしたとのこと。前作よりは救いがあると感じられるような内容でした。

前作の感想はこちら。
『「子供を殺してください」という親たち』を読んだ感想。漫画化がコミックバンチwebで読める

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『子供の死を祈る親たち』の内容

親子間の溝はますます深くなっている。自室に籠もり、やがて自殺すると脅し親を操るようになった息子。中学時代、母親の不用意な一言から人生を狂わせ、やがて覚醒剤から抜け出せなくなったホステス。刃物を振り回し、毎月30万も浪費するひきこもりを作ったのは、親の学歴信仰だった。数々の実例からどのような子育てが子供の心を潰すのか徹底的に探る。現代日本の抱える病巣を抉る一冊。

  • 第1章 ドキュメント
  • 第2章 事件化する家族
  • 第3章 なぜ家族は壊れるのか
  • 第4章 これからの家族
  • 第5章 患者の二極化がはじまった
  • 第6章 現場からの提言

第1章のドキュメントが2/3ほどを占めており、あとは作者の考察という形になっています。

精神障害に対する行政の現状や引きこもりの子供を持った親がどのように相談すればいいかも書かれており、解決するにはどんな可能性があるのかも探れるのではないでしょうか。

強迫性障害の引きこもりは増えているのか?

前書き「はじめに」で、精神障害者移送サービスの患者は「統合失調症やうつ病(躁うつ病)、強迫性障害、発達障害、薬物・アルコール依存」とあげられています。

強迫性障害がうつ病に続いて3番目にあげられていることに驚きました。

強迫性障害はほかの精神疾患と併発するケースも多いので、多く数えられているのだろうと思いつつ読み進めたのですが…。ドキュメントの1つ目から、かなり重症な強迫性障害の患者さんの例でした。

ほかの症例でも、強迫性障害という言葉がちらほらと出てきます。引きこもりが抱える精神障害として、強迫性障害は珍しくないそうです。

強迫性障害からのセルフ・ネグレクト

ドキュメントの強迫性障害の男性は、不潔恐怖症が悪化して清潔が保てなくなっていました。

押川さんは「セルフ・ネグレクト(自己放任)」「ネグレクトの連鎖」と表現されています。セルフ・ネグレクトとは、自分で自分の管理を放棄することです。

ドキリとしました。私は強迫性障害は自傷行為のようだと感じているのですが、強迫観念に逆らえず、かといって強迫行為をする力もなくなると、セルフ・ネグレクトになるのかもしれません。

彼は親への不満と恨みを募らせて、復讐するかのように引きこもり続けていました。ただ、そのために自分自身の人生も犠牲になったことを思うと、高すぎる代償に思えてなりません。

引きこもりになってから1、2年、せめて5年以内に親が動き出せていたら…。

彼と家族の生活はかなり壮絶で、不潔恐怖症の私にとっては震えるほど恐ろしかったです。

家族間の殺人は増えてはいない

本書での親族間殺人の割合が増えているという指摘には、疑問を感じました。

2003年までの過去25年間、親族間殺人の割合は検挙件数全体の40%前後で推移していましたが、2004年に45.5%に上昇。以降の10年間でさらに上昇し、2015年には52%まで増加しています。(292ページ)

たしかに「割合」は、増えています。しかし、これは検挙件数に対してです。

殺人の検挙件数は昔と比べて減っています。金銭目的の強盗殺人が減った結果、親族間殺人の割合が増えているだけではないでしょうか。

強盗殺人は返り討ちされれば自分の身にも危険が及びます。いまは電話とインターネットで、安全なところからちょちょいとお金を振り込ませられる時代ですから、やる気にならないでしょう。

親族間殺人が増えているかどうかは人口に対する件数で比較するべきだと思い、調べてみました。本書では2004年と2015年の比較ですが、統計資料の都合上、2005年と2015年の比較です。

2005年
人口:127,767,994人
殺人検挙件数:1,224件
親族間殺人の数:541件
殺人認知件数における親族間殺人の割合:44.2%
人口における親族間殺人の割合:0.042%

2015年
人口:125,319,000人
殺人検挙件数:864件
親族間殺人の数:453件
殺人認知件数における親族間殺人の数:52.4%
人口における親族間殺人の割合:0.036%

出典:「人口推計」(総務省統計局)平成26,27年の犯罪情勢 – 警察庁(PDF)

やはり、人口比では親族間殺人の割合は減っていると考えられます。ただ、親子間での殺人は10年間であまり変動が見られないので、人口が減っていることを思えば微増していると言えるかもしれません。

『子供の死を祈る親たち』を読んだ感想

『子供の死を祈る親たち』では、思ったよりも強迫性障害に触れられていました。ここまで重症化する人がいるという恐ろしさも感じました。

にもかかわらず、相変わらず世間での強迫性障害の認知度は低く、危険性に対する警鐘が足りないような気がします。危険性というのは暴力性ではなく、本人の健全な社会生活が失われる確率が高いという意味です。

「重症化すると引きこもりになる」という脅しで広まって欲しいとは思いませんが、苦しむ人が多く・苦しみも深い病気だということを、一人でも多くの人に知ってもらいたいです。

ちなみに前作では「強迫症」と書かれていましたが、今作では「強迫性障害」になっていました。「強迫症」が浸透しなかったことへの配慮でしょう。

精神疾患の病名変更は、ますます認知度が下がりそうなのでやめて欲しいです。

強迫神経症・強迫性障害・強迫症は同じで、強迫性パーソナリティ障害は別物とか、当事者でも混乱しそうなのに覚えてもらえませんよ~。

 

今作では患者側の視点や、医療につながってからのその後にも触れられていたのが良かったです。

とはいえ、ほとんどの症例は親子の断絶の道をたどっています。

子供が自立のために親から離れる決意をするのは立派ですが、親がまるで失敗作を捨てるかのように子供を切り捨てるのは、悲しいものがありました。

それだけのことをされてきたとはいえ、直接会うことはなくても筆者を通じて動向を訊いたりもせず、辛い経験を忘れたいとばかりにバッサリと切るのが怖いです。

人は我が子を、そんな風に捨てられるものなのでしょうか。

子供を虐待したり殺したりする親とくらべたら、残忍度が低いことはわかります。しかし、家庭を持って子育てをして、一見普通の暮らしを営んでいる人たちがそういうことをするというギャップに恐ろしさを感じました。

親子関係がここまでこじれることにないように、子育てをするすべての人に読んで欲しい本です。

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