龍たまこさんのコミックエッセイ本『規格外な夫婦』を読みました。
夫「まことくん」の強迫性障害と、妻である著者「たまこさん」の産後うつの経験を描かれています。
龍たまこさんの旧ブログ+書き下ろしが元になっています。
いまは新しいブログになり、まことくんの強迫性障害の記事は削除されたので読めません。
こちらの連載ですこし読めます。
弱メンタル夫婦の子育て アーカイブ | すくパラ倶楽部NEWS
龍たまこさんのブログはこちら。
規格外でもいいじゃない!!
書き下ろしの部分は『なごやメンタルクリニック』での治療のお話なので、曝露反応妨害法や集団集中3日間プログラムの様子がわかって興味深かったです。
『規格外な夫婦』の内容
とある地方都市に住む4人家族。会社員のお父さんと、専業主婦のお母さん、幼稚園児のお姉ちゃんに、3歳下の弟。どこにでもいる、何の変哲もない普通の家族です。だけど、この家族のお父さんとお母さんにはちょっとユニークな特徴があります。それは「強迫性障害」と「うつ病」という心の病気です。この本は、一つの家族が、心の病気と向き合い手探りながらも、前を向いていこうと奮闘し毎日楽しく暮らしている様子を記録した物語です。
- 強迫性障害って?
- 規格外な夫
強迫 発症から通院まで
強迫症夫あるある
規格外な夫
強迫 治療レポート
よく寝るダンナについて - たまこのうつ病体験記
たまこのうつ病体験記
たまこの崖っぷち育児 - 龍家の日常
- まことくんの言い分
半分くらいが夫の強迫性障害の話で、残りが妻の産後うつと育児、家族の日常になっています。
強迫性障害の家族の気持ちがよくわかる
『規格外な夫婦』は患者の妻の立場から描かれているので、家族のとまどいがよくわかります。
ところどころにダダ漏れするたまこさんの(つきあってられん)という本音や、休職中のまことくんに対する苛立ちもリアルです。
私は患者側ですが、たまこさんにも共感が持てました。自分があまり巻き込みをしないので、まことくんに共感できないというのが大きいのかも?
ああでも、まことくんの仕事中の確認の様子はものすごく共感できました。ゲシュタルト崩壊とか、確認がひどいころはすごくあるあるでした…。
キレる・記憶を失うのは強迫性障害の症状なのか?
強迫性障害である夫・まことくんは強迫モードに入るとキレて家族にあたるときがあります。
妻・たまこさんは「本人の性格ではなく病気の症状だとわかった」と理解されているご様子。
これって強迫性障害の「症状」なんですかね?
強迫性障害が原因でキレるのも、キレる理由もわかるんですよ。脳の働きのせいで怒りっぽくなったり、いっぱいいっぱいになって余裕がなくなります。
イライラしたり怒る患者は、残念ながら珍しくはありません。中には家族に暴力をふるう患者もいます。
でも、すべてが症状というのは違うんじゃないかと思うのです。
怒るのは脳の働きのせいでも、人にキレるのは本人の性格の問題ではないでしょうか。
というのも、まことくんの描写を見ると強迫モードじゃなくても、ケンカの時にはたまこさんに怒鳴ったりしています。
子供たちにキレたあとは謝ってもいるので、キレているときは記憶があるんですよね。会社ではキレている様子もない。
それなのに妻や幼い子供たちにはキレるというのは、人間性だと思うのです。
また、まことくんは強迫モードに入ったあとには記憶が飛んでしまう。これも、あまり聞いたことのない症状です。
スイッチが切れたように動きが止まる、フリーズするのは、私もよくあるのでわかります。確認した記憶がすっぽり抜けて、記憶があやふやになるときもあります。
が、本に描かれているような記憶が飛ぶのとは違うので…。
私が知らないだけかもしれませんが、珍しいケースなのかなと思いました。
うつ病体験記にも共感できた
強迫性障害の悪化時にはうつ状態だったので、たまこさんのうつ病体験記にも共感できました。
私は強迫性障害が原因でうつ状態になったので、たまこさんのように母との関係性に原因は無いのですが。
うつってきっと、自分がこうありたいと思う理想像に追いつけなかったときに、なるんじゃないでしょうか。
私は理想の自分なんていう高い目標はなかったけれど、健康で元気に仕事をしているのが当たり前でした。強迫性障害になった自分がショックで、うつ状態になったのだと思います。
たまこさんの、買い物や料理ができなくなったり食欲がなくなったりという症状は、当時の私そのものです。思い出して苦しいと同時に、私だけじゃなかったという嬉しさも感じました。
『規格外な夫婦』の感想
おもしろかったです。たまこさんの率直でユーモラスな視点がいいですね。
患者側としては、はたから見たらわけがわからなくても、本当に辛いんだよと言いたい気持ちもありますが。
強迫性障害は患者だけではなく、家族や周囲の人も苦しめる病気ですから、このように家族の気持ちを代弁してくれる本も必要です。
まことくんに対しては厳しい言葉も書いてしまいましたが、自分の病気というプライベートなネタをブログや本にすることを許すのは勇気が必要です。
個人情報の流出が怖くてSNSが苦手なのですから、出版に対する恐怖も大きかったと思います。
強迫性障害がコミックエッセイというわかりやすく楽しめる形で世の中に出たことを、同じ患者として感謝します。
ただ、まことくんの強迫性障害だけでなく、たまこさんのうつ病体験記も入れて一冊の本になっているのは、もったいない気もしましたね。出版を急ぎすぎたように感じました。
個人的にはうつ病体験記にも共感できたとはいえ、やはり強迫だけにテーマを絞ったほうが良かったかなと。
もう少し時間をおいて、まことくんの名古屋メンタルクリニックでの治療話やその後の経過も掘り下げて一冊にしたほうが充実したのではないでしょうか。
ともあれ、確認強迫の頭の中がよくわかりますし、家族の気持ちも正直にぶちまけていて、強迫性障害を知るとっかかりになってくれる本だと思いました。