『 医療スタッフのための 動機づけ面接法 逆引きMI学習帳』を読みました。
私は医療スタッフではなく患者側ですが、曝露反応妨害法を進めるうえで、治療意欲を出す方法である「動機づけ面接法」を知りたいと思いました。自問自答に使えるかな?と期待したのです。
曝露反応妨害法はかなりこなせるようになりましたが、不安が強くて取りかかっていない課題がまだ残っているんですよね。まあ、要するにやりたくないのです…。
私のような素人が読むのは、やる気を出す方法やモチベーションアップの本のほうがふさわしいのかもしれません。
しかし、そういう本は健康な人に向けて書かれています。方法として「行動」が示されていると、回避が多い強迫性障害には難しいです。
動機づけ面接法は対話だけで済みますし、医療スタッフが使うものだという点が信頼がおけて良いと思いました。
『 医療スタッフのための 動機づけ面接法 逆引きMI学習帳』の内容
注目の動機づけ面接法(MI)をわかりやすく紹介!
喫煙,飲酒,肥満などの生活習慣の改善に効果的なカウンセリング技法として注目される「動機づけ面接法(Motivational interviewing;MI)」を豊富な面談事例を用いてわかりやすく解説.
「明日からの面談が変わる」「患者・来談者が変わる」必読の一冊.
目次
- 第1章 面談場面でおきているコミュニケーション・エラーの背景
- 第2章 動機づけ面接法による面談事例~来談者のやる気を引き出す面談スタイル~
- 第3章 動機づけ面接法の基礎知識の整理
第1章 面談場面でおきているコミュニケーション・エラーの背景
第1章では以下を中心に、動機づけ面接法ではない面談がうまくいかない理由が解説されています。
- 人が行動を変えられない背景:両価性
- 相手の言動を正そうとする言動:正したい反射
- 目の前の相手の感情を害しては支援できない:心理的抵抗
人が行動を変えられない背景:両価性
人は、自分の行動や考えにおいて、「変わりたい、でも変わりたくない」「やりたい、でもやりたくない」という2つの相反する気持ちを同時にもつことがあります。これを「両価性(アンビバレンス)」といい、誰もが抱く当たり前のことです。
<中略>
そして、この状態の人をある一方向へ説得すると、逆の方向に動機づけられます。(1~2ページより)
両価性。「やめたいのにやめられない」病気だと言われる強迫性障害にぴったりと当てはまる言葉です。
例では、ダイエットをしたい奥さんとその旦那さんの会話があげられています。「痩せたい、でも食べたい」という、実にありがちな不毛な会話でした(笑)
人が相反する気持ちを同時に持っているというのがわかりやすいです。
相手の言動を正そうとする言動:正したい反射
人は相手が間違ったことを言ったり、行ったりすると、その「考えや行動を正したい」という本能的な願望をもっています。(2~3ページより)
ああー、あるある。これもけっこう強迫性障害っぽい行動ではないですか?
正しいことをさせようとするのは、相手が相反する気持ちを持っている「両価的な状態」のときには逆効果だそうです。
あれですね、子供が「宿題はやったの?」と言われると「やろうと思っていたのに催促されたからやる気がなくなった!」と答えるやつ。
目の前の相手の感情を害しては支援できない:心理的抵抗
両価的な状態にある人を、ある一方向に説得すると「個人の自由を侵害された」と感じます。
そうなると、自分の自由を守ろうという抵抗が生じ、相手の説得と逆の行動(問題行動)に惹かれ、その行動を行う頻度が上がります。これを心理的抵抗と呼びます。(3ページより)
あなたのためを思って言っているのに、どうしてわかってくれないの!というのは通じないのですね。
なるほど。なーるーほーどー!
私は正論を言ってしまうほうなので、こういう仕組みだったのかと目から鱗が落ちました。
例えば、前に恋人が痩せたいと言うので「ご飯を減らして運動すれば痩せるよ」と言ったんですよ。私はいつもそれで体重調整をしているので。
でも、「仕事で疲れてお腹が減るから食事の量は減らしたくない」とか「仕事で体を使っているから運動する必要はない」とか拒否されて、しまいには「今の体重でも問題ない」とか言い出しました。
私は「だったら痩せなくてもいいんじゃない?」と返して、その場は終わったのですが。だいぶあとで彼は自発的に運動を始めて、見事に適正体重になりました。
動機づけ面接法では、この正したい反射を抑えることが重要とのこと。なかなか難しそうです。
動機づけ面接法がもつ2つの顔
動機づけ面接法では、対処法を教えたり、認知を変えたり、過去を掘り返したりせず、来談者(※患者)が現在、何を求めているのか、何を心配しているのかに焦点を当てていきます。
<中略>
MI(※動機づけ面接法)では、行動変容を促すために両価性の解決を意図して、特定の変化の方向を目指して面談が進められることです。つまり、MIには来談者中心的でありながら特定の方向を目指すという2つの顔があるのです。(6ページより)
強迫性障害の曝露反応妨害法は、本人に治す気があることが大切とされています。
ところが、動機づけ面接法は「行動変化の準備ができていない人のためにデザインされた面談スタイル」なのだそう。
本では行動変化の段階が以下のように示されています。
- 無関心期(興味なし)
- 関心期(興味はある)
- 準備期(やろうと準備中)
- 実行期(開始)
- 維持期(続行中)
「無関心期(興味なし)」「関心期(興味はある)」の人が対象とのこと。
強迫性障害では治療に前向きでないばかりか拒否する人も珍しくありません。拒否している場合はどうなんだろう?と思ったら、第2章からの面談事例でそういうケースが出てきました。
たいていはお酒やタバコが例になっていますが、体の病気でも治療を拒否するケースがあってびっくりです。お医者さんって大変ですね…。
第2章 動機づけ面接法による面談事例
まずは、動機づけ面接法の学習の8段階が解説されています。
- MIの精神
- OARS:来談者中心の面談スタイル
- チェンジトークと維持トークの認識
- チェンジトークを引き出し強化する
- 維持トークと抵抗への対応
- 変化への計画を発展させる
- 宣言を強化する
- 他の方法との統合
(9ページより)
聞いたことのない用語も出てきて、少し難しかったです。まあなんか、段階があるんだなと思いました。
続いて会話形式の事例がいくつか掲載されており、来談者(※患者)の発言がどういう意味を持つのか、面談者の発言が何を意味しているのか赤字で書かれています。
用語はわからないながらも、本の体裁はとてもわかりやすいです。
第3章が「動機づけ面接法の基礎知識の整理」になっているので、私のように初めて動機づけ面接法に触れるなら、第1章→第3章→第2章の順番で読んでもいいでしょう。
第3章 動機づけ面接法の基礎知識の整理
第2章の冒頭で紹介された動機づけ面接法の学習の8段階をたどりながら、ひとつひとつ詳しく解説されています。
MIは、人を変化に向かわせるためのトリックではなく、来談者が変わるためにすでにもっている自分自身の資源に気づき、変化のための自らの動機を活性化する面談スタイルです。(87ページより)
動機づけ面接法という存在を知ったとき、治療したくない人を治療に向かわせられるなんてすごい!と思いました。
正直に言うと、人の心を操れる魔法のようなテクニックだと想像し、覚えてみたいという気持ちもありました。それが、見透かされたように否定されていました。
「来談者が希望しない行動へ誘導するトリックではありません」「手順としてのテクニックではありません(マニュアルではなく練習によって身につきます)」などと、きっぱりと書いてあります。
患者を尊重して、患者の中にあるものを丁寧にすくい上げる面談だとわかりました。
あと、「簡単ではありません(単純ですが上達には練習が必要です)」「あなたがすでにしていたものではありません(熟練した臨床家の技術をさらに洗練したものです)」ともあります。
患者さんのご家族には、本人が治療を受けたがらなくて困っている人もいます。『図解 やさしくわかる強迫性障害』にも動機づけをベースにした会話が載っていたので、ご家族にもいいかもと思ったのですが、参考にする場合は気をつけて使う必要がありそうです。
『 医療スタッフのための 動機づけ面接法 逆引きMI学習帳』の感想
曝露反応妨害法でどうしていまだにやる勇気を持てない課題があるのだろう?と悩んでいました。
挑戦したい。でもできない。やめたほうがいいことはわかっている。普通はやらないこともわかっている。それなのに、やめる気になれない。
停滞していた私にとって、「人が行動を変えられないのは誰もが抱く当たり前のこと」と書いてあったのは驚きでした。
当たり前のこと…。
私はできない自分を許せない気持ちがあったのです。いままではそのおかげで課題をこなせていた面も大きいです。
でもそうか、できなくて当たり前なんだ。そう思ったら不思議と「やってみようかな」と思いました。
できない自分を認めたことで、本当にできないままなのかな?できないままでいるのは嫌だ!という気持ちが強くなったのかも。
一人二役で面談者と来談者形式で会話を書いてみようと考えていたのですが、その必要はなくなりました。あ、でも、課題に挑戦できなかったら書いてみます。
人の気持ちはこういう風に反応すると教えてもらったことで、治療意欲を高めることができました。自分の中にある矛盾や、本当はどうしたいと思っているのかに気がつけました。
専門家向けの本ですが、文章もやさしいし言葉の説明も丁寧で難しくはありません。
治したいのに曝露反応妨害法をする気になれないという人や、治療に前向きでない患者のご家族は読んでみてはいかがでしょうか。