『悩みにふりまわされてしんどいあなたへ 幸せになるためのいちばんやさしいメンタルトレーニング』を読みました。
第三世代の認知行動療法と言われているACT(アクト=アクセプタンス&コミットメント・セラピー)の本です。
ACTの本は読んでみたかったのですが、海外の本を翻訳した専門家向けの本がほとんどなので手が伸びませんでした。
『悩みにふりまわされてしんどいあなたへ』は日本人著者が書いた(たぶん)一般向けの本なので、待ってました!と読んでみました。
『悩みにふりまわされてしんどいあなたへ』の内容
アメリカの医療現場で実践されている最先端の精神医学・認知行動療法「ACT」をやさしい言葉でわかりやすく解説した一冊。
本書で紹介する「幸せになるためのいちばんやさしいメンタルトレーニング」を実践すれば、あなたを苦しめていた「思い込み」がはずれ、「悩みにとらわれない人生」への道がひらきます。
- 悩まないようにしているのに、いつも同じことでぐるぐる悩み続けてしまう
- 過去の忘れられないツライ出来事を思い出しては、落ち込んでしまう
- 将来のことが不安になって、毎日が楽しくない
- 失敗した自分が恥ずかしくて、誰にも会いたくない
- どうしても許せない人がいて、イライラがとまらない
もし、あなたがいま悩んでいて、自分の感情に疲れてしまっていたら、この本に書かれているエクササイズを少しずつ、試してみてください。自分で、自分を助けてあげる方法がわかるはずです。
目次
- 1章 「悩み」にとらわれないために
- 2章 言葉があるから、「悩み」が生まれる
- 3章 自分の悩みを自分で解決するエクササイズ
- 4章 「言葉のルール」から自由になろう
- 5章 「イヤな気持ち」を受け止めれば、人生は豊かになる
ACT(アクト=アクセプタンス&コミットメント・セラピー)とは
アクセプタンス(Acceptance)は受容・受け入れる、コミットメント(commitment)は関わり・公約といった意味があります。
人生から、イヤなことをなくすことは、絶対にできません。
イヤなことを、苦痛を、人生からなくせない以上、それをなくそうと努力するのではなく「イヤなことがあったとしても、それにとらわれて悩むのではなく、前に進めるようになる」こと。
「苦痛があることを受け入れる。たとえ苦痛があったとしても、よりよい人生を選べるようになる」こと。
この発想の転換が、私たちがお伝えしたい大切なポイントです。
これこそが、最先端の精神医学・臨床心理学の成果である、認知行動療法 ACT の考え方です。(21ページより)
いままでの認知行動療法では、イヤなことに対してさまざまなとらえ方があることを知り、自分が苦しくならない受け止め方を学んできました。
ACTは「イヤなことはある」けれど、それはそのまま受け止めて、前に進むことを目指します。
森田療法によく似ていますが、森田療法が説明があまりないまま「いいから目の前のことをやれ!」という風なのにくらべて、ACTは丁寧に解説してくれています。
ゆううつループを抜け出して成長ループへ
本書では、「イヤなこと」があったときには「成長ループ」と「ゆううつループ」の2種類の反応があるとしています。
起きてしまった「イヤなこと」をバネにして、成長できる反応の仕方、前に進める反応の仕方を「成長ループ」と私たちは呼んでいます。逆に、「イヤなこと」をきっかけに、悩みが深まってしまうような反応の仕方を「ゆううつループ」と名付けました。(23ページより)
成長ループ
イヤなことがある → 現実を受け入れる → 前に進む
ゆううつループ
イヤなことがある → 代替行動 → 前に進めない
ツラい現実と向き合う代わりに、実際には「役に立っていない」のにやってしまっている行動が代替行動です。(30ページより)
自分の強迫性障害は自覚のない回避、つまり代替行動だった面もあるのではないかと考えているのでドキッとしました。
ゆううつループを抜け出すには、代替行動が無意味なこと、役に立っていないことをわかり、心底絶望する「創造的絶望」が大切だそうです。
「創造的絶望」では「完全に役に立っていない」ことを認める必要があるのです。
「わかる」ことは、実は「かわる」ことです。
「わかる」ことは、単に知識や情報を頭に入れることではありません。
何かが「わかった」とき、単に知識を得ただけでなく、あなたがやってきた「行動」も「かわる」のです。
いや、逆にこう言った方が、現実に近いかもしれません。
あなたに「かわる」つもりが、「かわる」覚悟がないなら、本当に「わかる」こともできないのです。(34ページより)
「わかる」ことは、実は「かわる」こと――私が強迫性障害の治療をとおして感じたことが書かれていました。
強迫性障害は「わかっているけれどやめられない」病気だと言いますが、私は本当の意味では「わかっていなかった」です。
手洗いも洗浄も確認も、過剰だという認識はある一方で、自分の理屈では必要だと思っていました。強迫行為をやめられないという事実は、強迫観念を信じていることのあらわれでした。
本当に強迫行為が必要ないと「わかった」のは、強迫行為をやめようと決意したときでした。
「かわりたい」「かわるしかない」と思ったから、「わかって」「かわった」のだと思います。
本書の「言葉」の意味はわかりづらい
「第2章 言葉があるから「悩み」が生まれる」に、「人間は、言語による思考で、自分を苦しめます」と書いてありました。
言葉は「いま、ここにない現実」をつくり出してしまう、言葉の思い込みによって苦悩するという話でしたが、ここは腑に落ちませんでした。
(ここでいう「言葉」は、頭の中の文字や、映像や、頭に浮かんでくる声などを含みます)と書いてあるので、それを「言葉」とあらわすのは適切じゃない気がするんですよね。
素直に「想像」「妄想」などでいいような…。
たしかに言葉には、考えを言語化することで強調されたり確かなもののように思わせる効果はあるでしょうけれど、しっくりきませんでした。
ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)のエクササイズ
「3章 自分の悩みを自分で解決するエクササイズ」は以下の3段階です。
- 「ほんとうの問題」をみつける
- その「問題」と向き合う
- 変わった自分でふり返る
ACTというのは前向きな治療法なんだなと思っていたら、エクササイズは心の深く重いところにはいるようなもので驚きました。
「イヤな気持ちにさせられたことのある、ワースト5人を挙げてください」とか、「イヤだった・許せなかったシーン・出来事を書き出してみてください」とか、けっこう辛いですね。
私は強迫性障害になる前はわりと平和に生きてきましたが、それでも過去につらい出来事のひとつやふたつ(みっつよっつ…)はあるので、あまりやりたくないなあと思いました。
まあ、悩みを解決するための本なので、ゼロからプラスではなく、マイナスからゼロへのエクササイズなのは仕方ないのかもしれません。
このエクササイズをやろうと思えるなら、すでにけっこうメンタルが強い気がしますけどね。
深いところまで入りたくないという人は、ステップ1を飛ばしてステップ2からでも大丈夫だそうです。
ただその場合も、想定される悩みは「対人関係」の問題なんですよ。
私は対人関係で悩んでいないし…と迷いましたが、あ、そうか!強迫観念を人だと思えばいいんだ!とやってみたら、ステップ1も飛ばすことなく有意義にできました。
『悩みにふりまわされてしんどいあなたへ』の感想
ところどころにイラストがはいっていて、文章もやさしくさらさらと読めます。
本のカジュアルな雰囲気にくらべて、エクササイズが重いのは意外でした。3章以外にちょこちょこと書いてあるプチエクササイズは、手軽にできてよかったです。
ACTがどのような治療法か知りたかったので、わかりやすくて満足しました。マインドフルネスを使いながら感情を味わって現実と向き合うやり方は、興味深くてためになりました。
エクササイズをやらなくても、悩みの中でぐるぐると回ってしまう「ゆううつループ」から「成功ループ」へ移るやり方だけでも役立ちます。
悩んでいる状態から抜け出したいという人は、読んでみてはいかがでしょうか。