『強迫性障害に悩む人の気持ちがわかる本』の感想。家族や恋人にもおすすめ

『強迫性障害に悩む人の気持ちがわかる本』を読みました。ずいぶん前に立ち読みをして良い本だと思っていたのに、ちゃんと読んでいませんでした。

この本は患者会である「OCDの会」発行の感想文集『とらわれからの自由』を元にした本だったんですね。あらためて読んでみて、なんっっって良い本なんだ!と思いました。

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『強迫性障害に悩む人の気持ちがわかる本』の内容

心の病気そのものに関する解説書は多く出版されていて、病気の知識は広まっていますが、患者さん本人が、どのように苦しみ、何を感じ、悩んでいるかという観点からまとめた本は、多くはありません。「いくら洗っても、手の汚れがとれないと思い、どこまでも繰り返す」「何度カギの確認をしても、安心することができない」などといった症状がある強迫性障害もそのひとつです。実際には患者数は多く、誰でも発症する可能性がある病気です。

患者さん自身に聞くと、いちばん訴えたいのは、この病気を理解してほしいということ。周囲の人が病気を本当に理解するためには、患者さん本人の気持ちをまとめた本が必要です。本書では、家族の会への取材をもとに、家族の気持ちも随時解説。強迫性障害という”不安とこだわりの病”を内面から理解し、回復に導く決定版です。

  • はじめに 発病のストーリー
  • 第1章 これは病気? やめたいのにやめられない
    (本人)不潔恐怖、子ども、確認強迫、不完全恐怖、加害恐怖、縁起強迫、強迫性緩慢、収集癖
    (家族へ)依存心
    (家族)自責の念、いらだち
  • 第2章 底なし沼に落ちていくような日々
    (本人)聖域、経過、儀式、体調不良、不登校、退職、ひきこもり、自殺
    (家族へ)伝えたいこと
    (家族)巻き込み、気持ちの限界
  • 第3章 大切なのは、本人の治りたい気持ち
    (本人)出会い、医療機関探し、治療、治療の効果
    (家族)受診、巻き込み、治療への参加
  • 第4章 普通に暮らせるってすばらしい
    (本人)考え方、治癒とは、再発、生活、変化、未来
    (家族へ)感謝
    (家族)再出発
  • おわりに 回復へのストーリー

第1章 これは病気? やめたいのにやめられない

強迫性障害の代表的な症状である、不潔恐怖、確認強迫、不完全恐怖などが書かれています。患者の気持ちと一緒に解説されていますので、どのように考えておかしな行動をとってしまうのかがわかりやすいです。

「OCDの会」には家族の人も集まりますので、強迫性障害という病気の存在を知らなかった家族側の悩みや、巻き込みに対する気持ちも書かれています。

これは私には当てはまらないなとか、こういう気持ちはないなというのもありますが、だいたいは強迫性障害の気持ちをよく代弁してくれています。

第2章 底なし沼に落ちていくような日々

完全な安心を求める気持ちには終わりがありません。ひとつが治まっても新たな恐怖の対象ができ、次から次へと新しい不安や恐怖が頭に浮かびます。症状もエスカレートしていきます。(38ページより)

強迫性障害がどのように重症化していくかが書かれています。

体調不良を起こす、学校や会社に行けなくなる、うつ病を併発するなど。どういった強迫観念があって、どんな風に困難に追い込まれるのかがわかります。

強迫性障害の難しさは、放っておいたり休んでいても自然に良くなることが少なく、悪化する可能性のほうが高いこと。一見、患者のためになるような手助けが患者のためにならず、本人も家族も対応方法を学ぶ必要があることです。

言われてつらかった言葉、うれしかった言葉も載っていますが、これは患者と家族の関係性や言うタイミングも大きく影響するので、そのまま真似するのは危険でしょう。

私の経験では、恋人に「そんなことしなくても大丈夫」という意味の言葉は、何回もかけられました。それを「そんな風には考えられない」と反発するときと、「本当にそうだな」と同意できるときがあったんですよね。

反応の違いは私の状態でしかなく…。私自身でも見極められません、ごめんなさい!

どうにか理解しよう・寄り添おう・楽にしてあげたいという気持ちは伝わりましたので、ありがたかったです。

第3章 大切なのは、本人の治りたい気持ち

ERPによる治療は、本人にとって大きな恐怖に立ち向かう苦痛を伴います。治療を始めるまでが、本人にとっていちばんつらい時間だともいえるでしょう。(64ページより)

自分が強迫性障害だと知ったとき、「このわけのわからない症状は病気なんだ。私だけじゃないんだ」と嬉しかったです。しかし、治療法を調べるにつれて病院に行けばすんなりと治る病気ではないとわかり、がっかりもしました。

それでも曝露反応妨害法をやるしかないと思い、ちびちびとやってきました。

「東京OCDの会」に参加して、自分以外の曝露反応妨害法をやっている人に出会えたことはとても励みになりましたね。会に参加したあとはより多くの曝露ができるようになりました。

本やネットで体験談を読むことはできますが、現実に治ったご本人の口から話を聞くのは衝撃度がまったく違います。

あ、OCDの会は治療を勧める会ではないので、まだ治す勇気は出ないけれど同じ病気の人の話を聞きたいというだけでも参加してみてはいかがでしょうか。

OCDは、病院で不適切な治療を受けたことにより、「もう病院に行っても無駄だ」「一生治らない」と治療をあきらめる人がいます。また、強迫儀式が生活の一部になり、やめたくない意識が強い人、ひきこもりや体調不良で家から出られないなど、なかなか病院に足が向かないケースが多いのも実情です。(68ページ)

家族にできることは、「OCDを治したい」という本人の気持ちを育てること。(69ページ)

本書では、家族だけでも専門医を受診することをすすめています。家族が本人の治療意欲を育てる方法を学べる病院があるといいですよね。

私は病院に行くのが怖くて仕方がなかったですし、強迫行為をやめられる気もしませんでした。治療が必要だと気がついたときにはすでに、一日中、強迫観念と強迫行為に追われていました。

治すには強迫行為をやめるしかないとわかっていたのに、怖いのとその日を過ごすのが精いっぱいで、治療に向かって方向転換することが難しかったのです。

やめようと思えたのは、生活が行き詰ったからです。詳しくは以下の記事に書いてあります。
強迫性障害を治す動機付け。底つき体験で「死にたい」から「治したい」になった

第4章 普通に暮らせるってすばらしい

なにか悪い考えに「とらわれる」状態から自由になるとは、そのとらわれがなくなることではなく、「そこにあってもいい」と思えるようになることです。(78ページより)

この言葉を見た時に「!」と思いました。というのも最近、強迫観念が浮かんだときに頭の中で「いいよ」という言葉が浮かんだのです。

いままでは「ああ、また考えてしまった」とか、曝露のために「汚れていてもいいと考えよう」だったのに「いいよ」。「考えてもいいよ」「強迫観念が浮かんでもいいよ」「でも強迫行為はしないよ」だった。自分でも驚きました。

このとき、もう強迫性障害から自由になったのかもしれないなあと思いました。

「完治、完璧を求めるのはもうやめる」というのも、本当にそうだと思います。私は強迫性障害が本当に辛くて、少しでも良くなるならそれでいいと思って曝露反応妨害法をしてきました。

完治したら嬉しいですけれど、改善しただけでもすごく楽になれましたし嬉しいです。

たとえ再発しても、自分なりにやり過ごす方法があり、以前のようなつらい状態にならないと思う。(83ページより)

これも同意です。この先、強迫性障害がぶり返すことはあっても、最悪の状態に陥ることはないはず。自分はもう対応できるから、手前でくい止められると信じています。

OCDの人は、誰にもわかってもらえないつらさを味わいます。ときには「他人が理解してくれない」ことが治らない理由だと思い込むこともあります。

ところが、他人がどれだけ理解を示しても、OCDは治りません。一方で、周囲の理解がゼロでも、あるいは家族に病気のことを隠したままでも、OCDが治った人はいます。

それはなにが違うのかというと、本人が「今のままではいやだ」と考えているかどうかです。(88ページより)

そうなんですよね。強迫性障害が辛すぎて治療できないという時期もありましたが、結局は、強迫性障害のままでいるのはいやだ!という気持ちが治療に向かわせてくれました。

今のままでいいのか。強迫性障害にとらわれて失った時間を後悔しないのか。

強迫性障害がいい経験になったという人の言葉もありましたが、私はそんな風には考えられていません。たしかに、強迫性障害を始めとした精神障害への理解を深められたとは思います。

それでも強迫性障害になったことは人生の損失であり、経験しなくて済むものならしたくなかったです。

いまでも症状が良くなるたびに「どうしてもっと早く治せなかったんだ!」と感じます。まあ、ずっと強迫性障害のままでいるよりは、ぜんぜんましなのですが。

『強迫性障害に悩む人の気持ちがわかる本』の感想

全98ページとほどほどに薄く、文字が大きくイラストがたくさんはいっていて読みやすい本です。

表紙にある「いったい何を心配し、恐れているのか?」という言葉は、強迫性障害である私も、何度も自分に問いかけました。自分でもわからないのですよね。

排泄物をはじめとした汚れが怖いのですが、自分が病気になったり死ぬこと、人に迷惑をかけることを恐れているとは思えず…。ただただ、汚れること・汚れを広げることを恐れていました。

著者である原井先生は、強迫性障害の気持ちをよくご存知だと感じました。私よりもよほど患者の気持ちをわかっていらっしゃいます。

考えてみれば、当たり前ですよね。私は自分一人の体験しかしていませんが、先生は何人もの強迫性障害の患者を診ているのですから経験数が違います。

それでも先生は、おそらく患者さんから何度も「先生には私の気持ちはわかりません」という言葉をぶつけられているのでしょう。本書にある、子供が描いた先生の絵には笑ってしまいました!ぜひ本でご覧ください。

『強迫性障害に悩む人の気持ちがわかる本』は、自分でもわけがわからない混沌とした気持ちが整理して書かれていて、理解してもらえている嬉しさを感じました。

いままで、強迫性障害におすすめの一冊といえば『図解 やさしくわかる強迫性障害』でしたが、この本もかなりおすすめしたいです。読みやすさの点では、こちらが最初の一冊でもいいくらいかも。

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