『脳科学は人格を変えられるか?』の感想。強迫性障害になった脳は治るのか

『脳科学は人格を変えられるか?』を読みました。

強迫性障害は、なりやすい性格があるという説もあります。

そう言われると「生まれつきだから治らないのかな?」と思ってしまいますよね。

私は「性格は変えられる」「強迫性障害は治る」と考えていましたが、根拠は薄く、いまいち自信は持てませんでした。

でも、この本が答えをくれました。

本書のタイトル『脳科学は人格を変えられるか?』という問いは、私にとって「強迫性障害になった脳は治るのか?」でもあったのです。

分厚い本ですが、強迫性障害についてのお話も出てきておもしろかったです。

※本の紹介リンクは文庫本ですが、読んだのは単行本です。引用のページ番号は単行本のものになります。

悲観脳と楽観脳の違いが人格をつくる

筆者は「ものごとの受けとめ方は、なぜ人それぞれちがうのだろう?」というテーマを20年以上にわたって科学的に研究してきました。

脳の中で悲観的な心の動きを担当する回路をレイニーブレイン(悲観脳)、楽観的な回路をサニーブレイン(楽観脳)と呼んでいます。

人格は脳がどのように動くか、つまり回路の違いによってできあがります。

悲観的な回路が強いか、楽観的な回路が強いかで性格が変わるというわけです。

そして、悲観脳・楽観脳の根底にある回路は、脳の中でもいちばん変化しやすい部分なのだそうです。

ストレスや憂鬱な出来事が長期間つづけば、あるいは幸福感や喜びが長期間つづけば、脳の特定の部分に構造的な変化が起きる可能性がある。

つまり、人間の脳には変化する可能性があり、実際に変化できるのだ。

<中略>

逆にいえば、困難や喜びに対する脳の反応を変えることができれば、性格を変えるのも夢ではないのだ。

<中略>

たとえあなたが臆病で不安がちな性格であっても、「生まれつきだから」とあきらめる必要はない
(16ページより)

人間の脳は変化することができて、性格を変えるのも夢ではないということです。

ものごとの受けとめ方というと認知行動療法の話かな?と思いましたが、もっと直接的に、画像や言葉で脳の回路を刺激する研究がされていました。

悲観脳と楽観脳を変える認知バイアス修正

不安が強いと、「なぜ自分はこんなに深く考えてしまうのだろう」とか「考えすぎる性格を変えたい」と考えてしまいますよね。

慢性的に抑圧や不安に悩まされる人は、いうなれば、ものごとを厳しい観点から見るのに長けた人々だ。良い出来事は彼らの心にほとんど印象を残さず、そのかわりに失意や失敗ばかりがクローズアップされる。

こうしたバイアスを修正できれば、心理学上の免疫のようなものが得られるのではないか?そのためにはネガティブで有害な心のバイアスを、積極的に正していく必要がある

では、どうすれば有害な思考形式を修正できるだろう?この問題には多くの認知心理学者や臨床心理学者が取り組んできたが、彼らが今注目しているのが<認知バイアスの修正>と呼ばれる進歩的なプログラムだ。(234~235ページより)

ネガティブな性格は、悲観的な方に注目してしまう心のバイアス(偏り)。脳の悲観的な回路が強化されているのです。

それを変えるのは<認知バイアスの修正>というプログラムです。

フロリダ大学の心理学者ノーマン・シュミットは臨床実験で、重度の社会的不安障害を抱える人々に認知バイアス修正の処置をほどこした。

マクラウドが行ったような認知のトレーニングを1日に8セッション、週に2回の頻度で行ったところ、脅威を回避するグループに入った患者の72パーセントの不安度が、深刻な社会的不安障害とは診断されないレベルにまで下がった。(244ページより)

認知バイアスの修正では映像に応じてボタンを押すなどして、脳の悲観的な回路を消去したり・楽観的な回路を強化します。

低コストでやりやすく、インターネットを使えば自宅でもできるので、いままでの治療法と併用して取り入れられる可能性があるそうです。

スマホアプリでできるようになるといいですね。

暴露療法を加速する薬「D-サイクロセリン」

暴露療法の効果を大きくする薬「D-サイクロセリン」についても書かれていました。

暴露療法は恐怖症やPTSDの治療法です。

PTSDの仕組みとして、フラッシュバックが起こる回路が強化されているという説があります。

強迫性障害でも恐怖や不安が簡単にわくことを考えると、PTSDと同じ回路が強化されている可能性があります。

本書には書かれていませんが、いまでは強迫性障害にもD-サイクロセリンの効果が期待できるとして、研究が行われています。

この暴露療法の効果は、実験室で行われる条件づけ恐怖の消去と同一線上にある。この恐怖の消去プロセスがある薬によって加速することが、最近の研究から判明している。

その薬とは、本来結核の治療に用いられるD-サイクロセリンと呼ばれる抗生物質で、それを飲むと普通よりずっと少ないセッション数で、恐怖心を克服することができる。D-サイクロセリン単独では効果が無いが、投薬と暴露療法をセットで行うと、恐怖の対象がじつは無害だという新しい知識がすみやかに習得されるのだ。(254ページより)

D-サイクロセリンは結核に使われる薬で、脳のグルタミン酸受容体であるNMDA受容体に働きかけます。

グルタミン酸受容体に働きかける薬の話は聞いたことがありましたが、薬だけでは効果が無いとは知りませんでした。

画期的な新薬が出るのか!?と期待していたので、そこは残念でした。

考えに「ラベルづけ」すれば扁桃体をしずめられる

私は強迫性障害を知らずに「変なことをするようになってしまった」と悩んでいたころよりも、強迫性障害という病名を知り、ラベルがついたほうが気持ちが楽になりました。

同じように、考えにラベルづけすることで気持ちを切り替えられるそうです。

感情をコントロールするには、自分がものごとをどう解釈しているか認識し直すだけでも効果がある。このことは今、多くの証拠からあきらかにされつつある。たとえば、憂うつな気分でいっぱいになっているとき、「事態はそれほどひどくはないかもしれない」と自分で自分に語りかければ、それだけで、暗い気分を切り替えられる可能性があるのだ。(259ページより)

強迫性障害の治療で知られる精神科医ジェフリー・シュウォーツ博士の名前も出てきます。

彼の著書『不安でたまらない人たちへ』に出てくる強迫性障害の治療法「四段階方式」は、<マインドフルネス認知行動療法>とされています。

その第一段階は「ラベルを貼り替える」。

頭に浮かぶ嫌な考えに「強迫観念」というラベルをつけることで、事実ではない、恐れる必要はないと認識するのです。

心に浮かんだ考えや映像にラベルを貼るだけで、前頭前野の抑制中枢を活性化させ、それによって扁桃体の反応をしずめることができる。(260ページより)

不安障害やPTSD、強迫性障害では扁桃体が過剰に活動します。

そもそも扁桃体を活動させないほうがいいのでは?と考えてしまいます。

が、「第三章  恐怖を感じない女」に扁桃体を損傷した女性が出てきたのですよね。

扁桃体が働かなければ恐怖を感じることができず、危険から身を守れないので、抑制中枢を活性化するべきというお話でした。

脳科学は強迫性障害を治せるか?

強迫性障害のときは、強迫観念である嫌な考えが浮かばないようにしたいと願っていました。

強迫性障害の治療である曝露反応妨害法では、強迫観念に向き合わなくてはなりません。

それは苦しいので、なんかうまいこと(笑)、強迫観念に接することなく脳の反応を変えたかったのです。

考えた結果、不安になりやすくなった脳を、少しでも楽しいことに向けるのがいいだろうと思いました。

強迫性障害に使う時間を減らす、強迫観念がわいても恐怖や不安に支配されるのをやめる、楽しい時間を増やすということを心がけました。

本書と同じく、悲観脳を減らして楽観脳を増やすようにしたのです。

苦しみから生まれた必死の抵抗でしたが、脳科学的にも正しかったのですね。

スポーツジムで体を鍛えれば筋肉を強くしたり柔軟性を高めたりできるのと同じように、訓練を行えば、脳の各領域を結ぶ経路を強くすることができる。こうしてに認識の変更を何度も繰り返せば、恐怖や快楽に直面したときの脳の反応にたしかな変化が生じるようになるのだ。(264ページより)

脳科学は強迫性障害を治せるか?というと、私は(おそらく筆者も)ある程度は治せると考えます。

本書にはその根拠となる研究が紹介されていて、より自信が持てました。

『脳科学は人格を変えられるか?』の感想

文庫は397ページ・単行本は326ページと、かなり分厚い本です。

翻訳も一般向けまではくだけておらず、パッとはわからない英単語もカタカナのままだったり、私には少し難しかったです。

全6章のうち1~5章までは脳の仕組みについての実験と考察が多く、やや長すぎる印象でした。

ただ、一番興味があった「第6章 抑うつを科学で癒す可能性」と、その前の「第5章 タクシー運転手の海馬は成長する」だけでも十分に面白いです。

5章と6章で100ページ弱ありますし、文庫本の価格ならここだけでも払う価値があります。

内容はとても興味深く、考え方の癖、さらに性格・人格も変えられる可能性にはわくわくしました。

上記したほかにも、以下の内容が特におもしろかったです。

  • 「欲する」物質ドーパミンと「気持ちよくする」物質オピオイド
  • 楽観主義は粘り強さにも関係がある
  • 視覚的には見えていないはずの危機を、無意識が感知する
  • セロトニン運搬遺伝子SS型は不安だけではなくポジティブにも敏感
  • 原始的な脅威と現代的な脅威への恐怖反応の違い
  • レオナルド・ディカプリオは役に入れ込み過ぎて一時的に強迫症状が出た
  • 不安を感じやすい人の脳は扁桃体と前頭前野を結ぶ鉤状束(こうじょうそく)が細い

がっかりしたのは、この本が2014年に出版されていたことです。もっと早く読みたかった…。

「性格を変えたい」という願いや、「どうして人は価値観が違うのだろう」という疑問を持ったことがある人には楽しめる本だと思いました。

ひとつ注意したいのは、<認知バイアスの修正>プログラムの実践方法は書かれていません。

実際にやりたい人には、強迫性障害のためのマインドフルネス認知行動療法の本『不安でたまらない人たちへ』や、ACTの本『幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない』がおすすめです。

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