『「子供を殺してください」という親たち』を読みました。病識がない精神病の患者を医療につなげる、「精神障害者移送サービス」の押川剛さんが書いたノンフィクションです。
以前テレビ番組で、引きこもりを説得して部屋から出す様子が放送されていました。
ご自身にも危険が及ぶ大変なお仕事です。誰も(親も)やりたがらない作業を引き受けていらっしゃることに頭が下がります。
この本を読んでみて、想像以上の大変さ・解決の難しさに驚きました。あまり読後感は良くありませんが、読んでおくべき本だと思いました。
漫画化はこちら。一部無料で読めます。
「子供を殺してください」という親たち | コミックバンチweb
『「子供を殺してください」という親たち』の内容
自らは病気の自覚のない、精神を病んだ人を説得して医療につなげてきた著者の許には、万策尽きて疲れ果てた親がやってくる。過度の教育圧力に潰れたエリートの息子、酒に溺れて親に刃物を向ける男、母親を奴隷扱いし、ゴミに埋もれて生活する娘…。究極の育児・教育の失敗ともいえる事例から見えてくることを分析し、その対策を検討する。現代人必読、衝撃のノンフィクション。
- 第1章 ドキュメント
- 第2章 「子供を殺してください」という親たち
- 第3章 最悪なケースほどシャットアウト
- 第4章 精神保健福祉法が改正されて
- 第5章 日本の精神保健分野のこれから
- 第6章 家族にできること、すべきこと
子供の精神病は親に原因があるのか
押川さんは、病識のない精神病の子供(成人しており子供という年齢ではありませんが)を説得し、病院で治療を受けられるようにしています。けれども、そこから回復して自立して生活できるようになった「成功例」が少ないのです。
実例として出てくる子供たちは確かに病気も抱えています。でもそれ以前に、健全な思考力・判断力を備えられていません。
押川さんは、子供が精神病になる原因は、少なからず親にあると書いています。
しかし、精神病は脳の病気だとされている現在に、親のせいだとするのは正しいのでしょうか?
人間の能力には個人差がある
人間の能力には個人差があり、勉強では0点しか取れない人から100点を取れる人までいるのは当たり前です。0点しか取れない人を知的障害とすると、10点の人も30点の人もいます。誰もが平均を取れるわけではありません。
そして知能だけではなく、人格でも能力でもバラつきがあるのが人間です。
病を抱えて引きこもり暴力をふるう子供は、救って医療につなげるべき存在。だったら、子供をそこまでモンスターにしてしまった親も、子育てが上手くできなかった不完全な人なのではないでしょうか。
もちろん、健全な人格を持った人間を育てられるように心がけるべきですが、親子両方の能力や資質にもよるところであり、限界はあると思います。
病院に送り込んでも解決までの道が遠い
押川さんにより病院に送り込まれた人たちの多くは、投薬である程度は落ち着きを見せます。でも、親子関係の回復は難しいです。
こういった人には、認知療法で認知の偏りを取ることが必要でしょう。本書には、病院からは3か月で退院を促されると書いてあり、とてもカウンセリングでの治療までは終わらないことがうかがえます。
治療が成功しても、自立できるかどうかという問題も残ります。
その道のりの長さ・大変さを思うと、押川さんが親の教育に焦点を当てて、こうした人が少しでも生まれないようにと警鐘を鳴らすのもわかります。
子供が引きこもりになったり暴力をふるいだす早い段階で、適切な対応を教えてくれる行政サービスがあればいいのでしょうか。
いやでも、対応を教わっても親ができるかわからないし…と、私の頭は堂々巡りをしてしまいました。
本書では親の対応の仕方についても書かれています。子育て中の人が読むことで未然に防げるケースが増えることを祈ります。
それにしても、自分が強迫性障害でありながらこんなことを言うのは何ですが、精神に異常をきたした人と暮らすのはすごく大変なことがわかります。
私も認知症の祖父母と暮らしたことがあり、相手に判断力が無いとわかっていても異常行動には悩まされました。まして、一応言葉は通じる、理性はあるように見えるとなると…って、強迫性障害も当てはまりますね。
この『「子供を殺してください」という親たち』にも、同じく押川さんが書かれた『子供の死を祈る親たち』にも、強迫性障害が出てきます。強迫性障害は重症化することもあり、本人だけでなく家族も苦しめます。
『子供の死を祈る親たち』は、まだ読んでいないので読みたいです。
【追記】読んだので感想を書きました。
『子供の死を祈る親たち』の感想。引きこもりに強迫性障害は多いのか?